風呂屋でしかられた




 「こら―ッ、ちゃんと戸を閉めんかぁ―」
 昔もお風呂屋さんの浴室の出入口戸は半自動になっていた。そろばんレールというそろばんを裏返したような戸車の上に戸が乗っかっており、勾配のついた敷居の上をこの戸車がゴロゴロと動いて戸が閉まる仕掛けになっていた。そろばんレールが古くなるとそろばんのこまの動きが悪くなり、ちゃんと手で戸を閉めないと冬場などは入口近くの大人に大目玉をくうことになる。
 思えば子供の頃はまわりの大人達によくしかられた。マナーが大切なお風呂屋さんでしかられることが特に多かったように思う。脱衣箱から離れて服を脱ぎ、戸を開けておいた脱衣箱めがけてシュート!なんと、横のおっちゃんのハゲ頭にmyパンツがハラリ「コラ―ッ」。浴室の戸の開けっぱなしに始まり、掛り湯もせずにザブーンと湯舟に飛び込んではしかられた。浴室に入る前にトイレを済ませる。石けんの泡や湯が隣の人に掛からないように。体を洗い流した湯が湯舟に入らないように。石けんの泡を流し残したまま湯舟に入ろうとして注意されたことがよくあった。現在のように濾過器がない昔のお風呂屋さんでは、モラルが湯を清潔に保つ手段だったのであろう。小さな子供に掛り湯をさせようと、親が桶を片手に追っかけ回し、ついに「ツルッ」「ゴツン」となって泣き叫ぶ子供もよく目にした。いつの世も子供はよく似たもの、風呂屋での遊びのメインはやはり潜りであろう。しかし昔はこれには相当な覚悟が必要で、湯舟に潜って浮上した頭の上にはゲンコツが待機、「ゴツン」ということになるのである。
 近頃ではよその子供をしかる大人はめったにいなくなってしまったが、昔は周囲も含めた大人達が満遍なく子育てに参加していたように感じる。
 しかられた子供達は、親に言いつけられないかと“はらはら”“びくびく”怖かった・・・。





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